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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)111号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 取消事由の判断

1 本願発明の構成、効果

請求の原因四2、5(一)の事実は当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第二号証(本願公報)によれば、従来、変性エチレン重合体、ナイロン、EVAコポリマー又は金属箔による積層体は、変性エチレン重合体が耐熱性に劣り、高温時における層間の接着強度を改善する必要があつたこと、このことを課題として、本願発明者は検討の結果、変性エチレン重合体のうち特にMI比五ないし一八のものを選び、これと炭化水素系合成ゴムを本願発明の特許請求の範囲記載の特定割合(変性エチレン重合体九五ないし八〇重量部、炭化水素系合成ゴム五ないし二〇重量部)により配合させた、変性モノマー量濃度を組成物に対し〇・〇一ないし一〇重量%とする変性エチレン重合体組成物が高温時の接着性改良に効果があることを見い出したこと、すなわち、その実験結果である別表一によれば、本願発明の要件(MI比、配合割合)を備えた変性エチレン重合体と炭化水素系合成ゴムであるエチレンプロピレンゴム(以下「ゴム」という。)を配合した変性エチレン重合体組成物を用いた積層体(実施例1ないし5)及び本願発明の要件を備えない変性エチレン重合体組成物を用いた積層体(比較例1はMI比の要件を備えた変性エチレン重合体のみにより組成され、ゴムを含まないもの、比較例2、3は、変性エチレン重合体はMI比の要件を備えるが、ゴムとの配合割合の要件を備えないもの、比較例4は変性エチレン重合体とゴムとの配合割合の要件は備えるが、変性エチレン重合体のMI比の要件を備えないもの)について、それぞれ23℃、60℃、80℃、100℃の温度下でインストロン引張試験機により、引張り速度50mm/minの引張力をかけて剥離強度を測定したところ、いずれも剥離強度は、高温になるにしたがつて低下するが、その低下の度合いは、本願発明の要件を備えた実施例の変性エチレン重合体組成物を用いた積層体よりも右要件を備えない比較例の同積層体の方が大きく、100℃における剥離強度は、実施例1が1.4、同2が1.1、同3が1.9、同4が1.0、同5が2.9であるのに対し、比較例1が0.7、同2、3、4がいずれも0.1以下であり、本願発明の要件を備えた変性エチレン重合体組成物を用いた積層体がこれを備えない同積層体よりその剥離強度において格段にすぐれていること、また、80℃における前同様の引張力に対する剥離強度は、実施例1が1.9、同2が1.4、同3が2.5、同4が1.3、同5が4.1であるのに対し、比較例1は2.1、同2は0.2、同3は0.1以下、同4は0.2であり、比較例1を除けば、本願発明の要件を備えた変性エチレン重合体組成物を用いた積層体がこれを備えない同積層体よりその剥離強度において格段にすぐれており、比較例1は実施例1、2、4より高い数値を示すが、100℃の下では前記のとおりどの実施例の剥離強度より低い数値を示しており、60℃における剥離強度2.5も実施例4の2.3より僅かに高いだけで他の実施例の数値より低く、結局、各温度変化に対応した比較例1全体としての剥離強度の変化をみれば、どの実施例よりも劣るものといえること、本願発明に係る変性エチレン重合体組成物は高温下における剥離強度の点でかような効果を奏するため、同組成物は、高温時の接着強度が要求される簡易レトルト食品、使用条件が厳しいガソリンタンク、工業用薬品缶にも用いられること、以上の事実が認められる。この事実によれば、本願発明は、変性エチレン重合体から一定のMI比のものを選び、これとゴムを特定割合で配合したことにより、かような剥離強度を備えた変性エチレン重合体組成物を得ることができたものということができる。

たしかに、本願発明の特許請求の範囲に記載されたMI比五ないし一八の変性エチレン重合体が公知であることは当事者間に争いがないが(したがつて、審決摘示の実験報告書から右のMI比の変性エチレン重合体が得られるか否かの判断は不要である。)、そうであるからといつて、本願発明が単に右の公知の変性エチレン重合体を表示したものにすぎないと即断することは許されない。すなわち、前記のとおり、従来の変性エチレン重合体組成物を用いた積層体は耐熱性の点で欠点があつたため、これを克服すべく、本願発明者が検討の結果、各種MI比の同重合体の中から特に選択したMI比五ないし一八のものとゴムとを特定割合により配合した変性エチレン重合体組成物が高温下における引張力に対する剥離強度が高いことをはじめて見い出したものである。かように、本願発明の変性エチレン重合体のMI比は選択の結果得られた数値であつて、それがたまたま公知のものと一致したからといつて、そのことをもつて、本願発明が単に公知のものを表示したにすぎないとすることは誤りであるといわざるを得ない。

2 引用発明の構成、効果

成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例の記載内容が審決の理由の要点2摘示のとおりであることが認められるところ、本願発明が変性エチレン重合体のMI比を五ないし一八と特定しているのに対し、引用発明ではその特定がない点において両者が相違していることは当事者間に争いがなく、前掲甲第二、第三号証によれば、両発明は変性エチレン重合体のMI比の点において相違するのみで、その他の構成は一致すること及び引用発明の課題、特許請求の範囲の記載等、請求の原因四3(引用発明の特徴)の事実が認められる。

しかして、別表二は、引用例に記載された引用発明の変性樹脂(変性エチレン重合体)を用いた積層体(包装材料)と市販の積層体について、ヒートシール性、剥離の有無、耐油性についての実験結果であるところ、右別表二によれば、引用発明の変性樹脂(変性エチレン重合体)を用いた積層体が一二五℃の温度下でも層間剥離を殆どおこさない事例が示されているところ(このことは当事者間に争いがない。)、右積層体は本願発明に係る変性エチレン重合体を用いているから、本願発明に係る同重合体を含む積層体においても、同様の効果を示すことは推認できるが、前掲甲第三号証によれば、引用例における右の実験は静止状態においてなされたものと認められるにとどまり、本願発明における別表一に示すような引張試験を実施したうえでの剥離強度は、甲第三号証によるも明らかではない。

3 前記のように、引用発明において、変性エチレン重合体のMI比に特に限定が付されておらず、一見して公知のMI比のものを包含するごとくみられても、前掲甲第三号証によるも、引用例は、前記のように、レトルト食品を収納する積層材各層が強固に結合されたレトルトパウチの提示を課題とするにとどまり、高温時における引張力に対する剥離強度に関する開示は全くなく、他方前記のように、本願発明は、特に公知のMI比ないし一八の変性エチレン重合体を選択し、これと特定割合のゴムを配合することによつて、引用例に開示された高温下静止時における層間剥離強度のほか、引用例には開示されていなかつた高温下における引張力に対する剥離強度についても効果を奏し得たうえ、単にレトルトパウチだけでなく使用条件が厳しいガソリンタンク、工業用薬品缶等の用に供し得るものを開発したものであるから、その構成及び効果において、これを引用発明と同一のものとすることはできない。

4 以上によれば、取消事由(1)、(2)はいずれも理由がある。

三 このように、審決は本願発明と引用発明の同一性に関する判断を誤つたものであり、この誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は取消しを免れない。よつて、本訴請求を理由あるものと認めてこれを認容する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

不飽和カルボン酸もしくはその誘導体をグラフトしてなる荷重一〇kgでのメルトインデックスMI10と荷重二一六〇gでのメルトインデックスMI2との比MI10/MI2が五ないし一八の変性エチレン重合体九五ないし八〇重量部と炭化水素系合成ゴム五ないし二〇重量部(計一〇〇重量部)の組成物であつて、変性モノマー量濃度が組成物に対して〇・〇一ないし一〇重量%からなる変性エチレン重合体組成物。

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